慰謝料のQ&A

不倫相手と肉体関係がなくても、配偶者に対する慰謝料は発生しますか。
肉体関係がない場合には,婚姻関係の破綻への影響が少ないという理由で、慰謝料を支払う義務は認められにくくなります。キスをしたというような事情があると、慰謝料の支払いを認める裁判例もありますが、食事を共にしたり、メールで連絡を取り合っていたというような事情だけでは、慰謝料の支払いが認められる可能性は低いでしょう。
配偶者と浮気をした相手に慰謝料を請求したいのですが、連絡先が分かりません。連絡先を知る方法はありますか。
弁護士に具体的な事件のご依頼を頂いた場合、弁護士の職権である、「戸籍や住民票の職務上請求」や「弁護士会照会」という方法が使えます。相手方の氏名、住んでいるおよその場所、以前住んでいたおよその場所、勤務先、実家、携帯電話番号、メールアドレスなどの情報があれば、連絡先を特定できる可能性があります。
自分の配偶者が浮気をして、その浮気相手も既婚者でした。いわゆるダブル不倫です。離婚をしないまま、浮気相手に慰謝料を請求したいのですが、浮気相手の配偶者からも、自分の配偶者に対して慰謝料が請求されるおそれはあるのでしょうか。
浮気相手の配偶者から自分の配偶者に対して慰謝料を請求される可能性は確かにございます。ただし、浮気相手が既婚者であることを自分の配偶者に隠していたというような事情があれば、請求を免れる可能性があります。
配偶者のいる人と浮気をしてしまい、高額な慰謝料請求をされて困っています。どうしたらよろしいでしょうか。
支払うべき慰謝料の金額は、不貞の期間、相手の夫婦の婚姻期間、若しくは、不貞によって相手の夫婦関係がどの程度壊れたか等の事情が影響します。例えば、半年程度の不貞で、婚姻期間も短く、不貞発覚後に離婚も成立していないというような事情があれば、数十万円をお支払いすれば済む場合もあるかもしれません。特に、100万円を超える請求があった場合は、弁護士のご相談いただけますと減額の可能性があるかもしれませんので、是非ご利用いただければと存じます。
離婚をする際に、慰謝料を請求しないという約束をしましたが、その後に元配偶者の不倫が発覚しました。この場合、元配偶者には慰謝料を請求できないのでしょうか。
双方が合意をして離婚をする際に、「今後いかなる名目の財産上の請求をしない」というような清算条項という約束をすることがあるのですが、約束をする当時に争いになっていなかった不倫が後日に発覚した場合には、錯誤(勘違い)を主張して清算条項の無効を主張できる可能性があります。
慰謝料を配偶者の浮気相手に請求したのですが、収入がないといって、支払いの約束をしてくれません。どのようにしたらよいでしょうか。
そもそも本当に収入がないのか明らかでありませんので、相手に課税証明書(市区町村役場で取得できます。)の提出をもとめて収入の調査をすべきでしょう。
また、仮に収入がないのが事実であっても、相手には分割払いの約束をさせることができますし、隠している財産があるかもしれません。弁護士であれば、弁護士会照会をして差押えの対象となる預金の調査をすることができる場合がありますので、ご相談をいただきたく存じます。
配偶者の浮気が発覚しましたが、離婚をする気はありません。しかし、浮気相手が,配偶者と同じ勤務先でまた浮気しないか心配です。相手に仕事を辞めさせることはできますか?
相手を辞めさせるか否かは勤務先が判断することであり、不倫が原因で勤務先の信用や企業活動の円滑な遂行が害されたというような場合でなければ、勤務先が不倫を理由とした懲戒解雇をすることは難しいかもしれません。
他方、浮気相手と示談をする際に、「職場で配偶者とは業務以外の接触はしない」というような約束をさせ、再度の不貞をした際は高額の慰謝料を支払うというような約束をさせることは、浮気の再発防止策として検討すべき方法になります。

親権のQ&A

「親権」って具体的にはなんですか?
「親権」とは、未成年の子のために養育監護・財産管理・法律行為の代理をするといった「権利」と「義務」のことです。
このうち、「養育監護」というのは少し耳慣れない言葉かもしれませんが、具体的には、子の居所を決め、叱るなどの懲戒行為をしたり、子の就職時に許可を与えるといった内容が挙げられます。
婚姻中においては、子の親である夫婦はいずれも親権者となります(共同親権)。しかし、離婚をする場合には、子の親権者を父または母のいずれか一方に定めなければなりません。
離婚前の状態においては、上記のとおり共同親権が認められますので、「親権」ではなく、「監護権」すなわち同居して子の面倒を見るといった権利義務のみが問題となります。
親権者の指定はどのような基準で判断しているのでしょうか?
離婚後の親権者については、まずは当事者である父母で話し合って決めるということになりますが、そのような話し合いができない場合は、家庭裁判所の調停や訴訟で決することになります。
家庭裁判所での手続において親権者の指定をする場合、具体的には以下のような要素を考慮していると考えられます。
①監護実績の尊重
「これまで子どもが父母どちらの監護の下、成長して来たか」という現状維持・現状の尊重という考慮要素です。
②子の意思の尊重
子どもが15歳以上の場合、家庭裁判所は必ず子ども本人の意見を聴くということになっています。また、15歳未満でも、小学校高学年程度の子どもであればその聴き取り内容を尊重し、監護権・親権の判断において参考要素としているようです。
③母性優先
実際に子のケアをし、育児をしているという父親も増えてきた現代社会においては、その重要性は後退してきているとは考えられます。ただ、絶対的な要素ではないものの、「子どもが小さい場合には母性を優先させる」という裁判所の傾向はいまだに見受けられます。
④面会交流の許容性
「同居親となった場合に、別居親に対して面会交流を寛容に認めるか」という点も考慮すべきとしているケースが見られます。別居親に対して寛容に認めるというほど、親権者としての適格性にプラスとなると言われています。もっとも、これは「面会交流をすることが子の福祉に資する(子にとって良いことになる)」ということが前提ですので、面会交流ができない事情があるケースでは、重視すべき要素ではないといえるでしょう。
⑤きょうだいの不分離
子どもが複数名いる場合、そのきょうだいはなるべく一緒にいられるようにしよう、という考慮要素です。
⑥子が現在の同居親と同居するに至った経緯
これは、たとえば子どもを連れ去ってしまって同居するに至ったケースなどで、「その監護状況が違法性を帯びる」ということでその同居親を親権者とするか否かの判断にマイナス要素として働く、ということです。
⑦監護能力
子どもの面倒を見ることができるか、あるいは自身では見られないとして頼るべき親族などがいるのか、など子の住む場所や生活環境を整えられるか、という要素です。なお、「経済力」をこの監護能力の内容に含めるか、という点については、相手方の方が経済的に優れているとしても養育費を適正に支払ってもらえばいいだけのことですので、あまり重視すべきではないといえます。
離婚の際に、親権者と監護権者とを分け、それぞれ別に指定しても良いのでしょうか?
親権者と監護権者を別に指定する、ということも、理論上は可能です。つまり、たとえば親権者は父だが、実際に同居して子を育てる監護権者は母、とすることもできます。しかし、Q1.のとおり、親権というのは法律行為の代理権など幅広い権限があるものですから、逆に言えば子の面倒を見ている監護権者が子どものために何か行為をする場合(たとえば預金口座を開設したり、医療手術を受けるなど)、親権者に判断を求めなければなりません。
したがって、子どものためには、このような親権者と監護権者の分離は望ましくないといえるでしょう。
親権者を決めたら、後で変更することはできないのでしょうか?
離婚の際には、父母の協議で親権者を決定することができましたが、その決定の後に親権者を変更する場合には、家庭裁判所の調停・審判による必要があります。
家庭裁判所が親権者を変更するという判断ができるのは、「子の利益のために必要があると認めるとき」に限られていますので、子どもが虐待を受けているなど、現在の親権者の下での養育が、子の福祉にとってマイナスになっている、というケースになります。
手続面のみならず判断基準の内容からも、一度決めた親権者の変更は、決して容易に認められるものではありませんから、離婚の際には十分に検討して親権者を決めておく必要があります。

養育費のQ&A

婚姻費用と養育費は違いますか。
婚姻費用とは、夫婦間で分担する家族の生活費をいいます。例えば、夫が会社員、妻が専業主婦、子供が1人の場合、夫の収入の中から、別居中の妻と子供の生活費を支払わなければなりません。これに対して、養育費とは、両親間で負担する子供の生活費です。上の事例でいうと、離婚後は妻の生活費を支払う義務はありませんので、夫の収入の中から、別居する子供の生活費のみを負担することになります。離婚前(別居中)は婚姻費用、離婚後は養育費の問題になります。
養育費の金額はどのように決まりますか。
まず、①権利者(支払われる者)と義務者(支払う者)のそれぞれの収入から、税金や経費を差し引き、自身や家族の生活費に充てられる「基礎収入」を算出します。
次に、②その「基礎収入」のうち、自分の生活費にはどのくらいの割合を当てるか、家族の生活費にはどのくらいの割合を当てるかという案分割合を「生活費指数」という指標をもとに決定します。
そして、①の「基礎収入」に②の案分割合を掛けあわせて、義務者から権利者に支払うべき養育費を算出します。
現在、この基礎収入や生活費指数は定型化されており、東京家庭裁判所HPの養育費・婚姻費用算定表という表に基づき、夫婦の収入のみにより、簡易的に養育費の金額を算出することができるようになっております。
自営業者の収入はどのように決まりますか。
自営業者の収入認定は確定申告書に依拠しますが、必ずしも、課税される所得金額が自営業者の「収入」になるとは限りません。
自営業者の収入認定には、課税所得に加え、現実に支出のない控除費目(基礎控除、生命保険料控除、青色申告特別控除、減価償却費等)を加算した上で、養育費の算出をする必要が出てきます。

財産分与のQ&A

いつの時点の財産が基準となるのですか?
夫婦が離婚する場合、離婚に先立って別居をする場合が多いため、別居後離婚までに財産が増減することがあり、いつの時点の財産を基準として財産分与を行うべきかが問題となります。
この点に関して、別居時の財産を基準として財産分与を行うべきという考えと離婚成立時の財産を基準として財産分与を行うべきという考えがあります。
裁判例は、「清算的財産分与は、夫婦の共同生活により形成した財産をその寄与の割合に応じて分配することを内容とするものであるから、離婚前に夫婦が別居した場合には、特段の事情のない限り、別居時の財産を基準にして財産分与を行うべきである」として、前者の考えをとることを明らかにしています。
以上より、基本的には、離婚に先立って別居をする場合には別居時の財産を基準として財産分与を行い、別居をしないまま離婚する場合には離婚成立時の財産を基準として財産分与を行う、ということになります。
子ども名義の預貯金は財産分与の対象となりますか?
夫婦が離婚する際、お子さん名義の預貯金が財産分与の対象となるかについて争いとなることが少なくありません。
お子さん名義の預貯金口座にお子さんがもらったお小遣い・お年玉、自身で稼いだバイト代等が入金されている場合、その部分はお子さんの固有財産として夫婦の財産分与の対象とはならないとされています。
では、夫婦の収入等からお子さん名義の口座に入金された場合はどのように考えるべきでしょうか。
財産分与は基準時における夫婦の財産の清算を目的としますので、夫婦の収入等から入金され、実質的に夫婦の財産を構成すると考えられる部分についてはお子さん名義の預貯金であっても財産分与の対象となります。
なお、夫婦の収入等から入金されたものであっても、お子さんへ贈与されたものやお子さんの自由な処分に委ねられたものについては、お子さんの固有財産として夫婦の財産分与の対象とはなりません。
別居時に配偶者が持ち出した財産はどうなりますか?
別居をする際に配偶者が家財道具等を持ちだすことがありますが、配偶者が持ち出した家財道具等は財産分与の中でどのように処理されるのでしょうか。
財産分与の対象となるのは、基本的に、基準時に存在する夫婦の財産から互いの特有財産(結婚以前から有していた財産等)を除いたものです。
観念上、配偶者が別居時に持ち出した財産は、基準時に存在する夫婦の財産の一部を構成するものですので、配偶者が別居時に持ち出した財産についても財産分与の対象となるものと考えられます。
その場合、配偶者が持ち出した財産の特定及びその財産的価値を算定した上で、他の財産分与とあわせ清算を行うことになります。
配偶者が将来的に受け取る退職金は財産分与の対象になりますか?
配偶者の定年退職まで時間がある状態で夫婦が離婚した場合、配偶者が将来受け取る退職金が財産分与の対象となるか問題となります(なお、配偶者が離婚時に既に退職金を受け取っている場合、その退職金自体が財産分与の対象となることに争いはありません)。
退職金は賃金の後払い的性質を有するものであるため、配偶者の勤務期間のうち、夫婦共同生活をしていた期間について、後に退職金を構成する賃金に関して、他方配偶者の助力が存在するものと考えられます。そこから、将来的に退職金を受け取ることが確定していないという理由のみから将来の退職金を財産分与の対象としないということは妥当ではありません。
他方、将来的に退職金を受け取ることができない可能性についても目を向けないわけにはいきませんので、実務上、勤務先の財務状況、これまでの勤務実績、退職金支給までの期間等を考慮し、将来退職金が受給される可能性が高いと判断される場合に将来の退職金を財産分与の対象としています。

年金分割のQ&A

私は夫と離婚することになりました。私たちは共働きで二人とも厚生年金に加入していますが、夫の方が給料が高いので、年金分割を請求したいと思っています。どのような手続をとればよいのか教えてください。
合意分割の手続によることになります。
年金分割のための情報通知書を年金事務所にて取得した上で、合意又は裁判手続で按分割合を定め、年金事務所に標準報酬改定請求をします。
私は夫と離婚することになりました。夫は会社員で、私は平成20年5月に結婚してからずっと専業主婦でした。年金分割の請求をする場合の手続を教えてください。
あなたの場合、3号分割により、合意や裁判手続がなくても、年金事務所に標準報酬改定(年金分割)の請求をすることにより、分割を受けることが可能です。
夫と妻の対象期間標準報酬総額がそれぞれ2000万円と1000万円である場合、請求すべき按分割合を0.5とすると、それぞれの額はどうなりますか。
夫と妻の対象期間標準報酬総額が分割前にはそれぞれ2000万円と1000万円である場合において、請求すべき按分割合を0.5(50%)とするというのは、夫から妻に500万円を割り当てて、夫と妻の対象期間標準報酬総額を1500万円ずつの同額とするということです。
夫の2000万円の0.5(50%)である1000万円を妻に割り当てるということではありません。
「年金分割をしない」という合意がされた場合、その法的効力はありますか?
年金分割請求権は、厚生労働大臣等に対する公法上の請求権です。公法上の請求権はその行使を当事者間の合意により直接制約することはできません。したがって、「年金分割をしない」という合意をしても、年金分割請求権の行使を制約することはできません。
なお、3号分割は被扶養配偶者から厚生労働大臣等に年金分割請求をすれば、当然に2分の1の割合で分割され、当事者間の合意や審判又は調停を要しません。したがって、そもそも3号分割については、「年金分割をしない」という合意をしても、年金分割請求権の行使を制約することはできません。

婚姻費用のQ&A

婚姻費用と養育費は違いますか。
婚姻費用とは、夫婦間で分担する家族の生活費をいいます。例えば、夫が会社員、妻が専業主婦、子供が1人の場合、夫の収入の中から、別居中の妻と子供の生活費を支払わなければなりません。これに対して、養育費とは、両親間で負担する子供の生活費です。上の事例でいうと、離婚後は妻の生活費を支払う義務はありませんので、夫の収入の中から、別居する子供の生活費のみを負担することになります。離婚前(別居中)は婚姻費用、離婚後は養育費の問題になります。
婚姻費用の金額はどのように決まりますか。
まず、①権利者(支払われる者)と義務者(支払う者)のそれぞれの収入から、税金や経費を差し引き、自身や家族の生活費に充てられる「基礎収入」を算出します。
次に、②その「基礎収入」のうち、自分の生活費にはどのくらいの割合を当てるか、家族の生活費にはどのくらいの割合を当てるかという案分割合を「生活費指数」という指標をもとに決定します。
そして、①の「基礎収入」に②の案分割合を掛けあわせて、義務者から権利者に支払うべき婚姻費用を算出します。
現在、この基礎収入や生活費指数は定型化されており、東京家庭裁判所HPの養育費・婚姻費用算定表という表に基づき、夫婦の収入のみにより、簡易的に婚姻費用の金額を算出することができるようになっております。
自営業者の収入はどのように決まりますか。
自営業者の収入認定は確定申告書に依拠しますが、必ずしも、課税される所得金額が自営業者の「収入」になるとは限りません。
自営業者の収入認定には、課税所得に加え、現実に支出のない控除費目(基礎控除、生命保険料控除、青色申告特別控除、減価償却費等)を加算した上で、婚姻費用の算出をする必要が出てきます。
住宅ローンを負担している場合、婚姻費用の金額は変わりますか。
夫が会社員、妻が専業主婦の事例でいえば、①夫が住宅ローンの残る家を出るケース、②妻が住宅ローンの残る家を出るケースの2つのケースが考えられると思います。
②の場合にはあまり問題になりませんが、①の場合には夫にとって自身の住居の家賃と妻の居住する家の住宅ローン(住居費相当)という2重の負担になるのではないかという問題が残ります。この場合、住宅ローンは住居費そのものではないと考えて、婚姻費用の金額を算出する際に全く考慮しないという考え方もあります。他方、例えば、夫の収入から毎月の住宅ローン額を控除した上で、婚姻費用の金額を算出するという考え方もあります。様々な考え方がありますので、互いの立場に応じた主張がなされるべき点といえます。

面会交流のQ&A

妻が子どもを連れて自宅を離れ,別居を開始して以降,子どもと会わせてくれません。子どもに会いたいのですが,一体どうすればよいでしょうか。
ご相談のようなケースでは,大きく分けて二つの方法が考えられます。
一つは,子の監護に関する処分(面会交流)調停を利用する手続です。面会交流調停は,家庭裁判所において,調停委員2名と家庭裁判所調査官が同席する部屋に,親同士が別々に入室し,父子交流の条件を調整するための手続です。
お子さんと定期的かつ充実した面会交流を実施したいとお考えの方は,この手続を利用することになると思います。
面会交流調停は,離婚協議中であっても離婚後であっても利用することが可能であり,調停で話し合いがまとまらない場合には,裁判官に一方的に判断してもらう審判手続に移行することも可能です。
もう一つは,子の引渡し・監護者指定調停,同保全手続(緊急性がある場合)が考えられます。ご相談のケースのように,子どもと別居するに至った場合に,父としても親権を争う意向であることが明確であるときは,早急にこの手続を利用することが肝要となります。スピードが求められるのは,子どもは時間の経過とともに新しい環境に慣れていきますので,時間が経てば,裁判所としても現状を維持するという判断に流れやすいといえるからです。
夫から面会交流の調停を起こされました。しかし,夫は婚姻費用を払わないような人ですので,子どもとの面会交流も認めたくありません。夫も婚姻費用の分担義務を守っていませんので,子どもと会わせなくてもよいでしょうか。
面会交流の実施と婚姻費用(または養育費)の支払とは,同時に履行しなければならない関係や対価関係にはありませんので,「婚姻費用を支払っていないから,面会交流は認められない」という主張は認められません。
面会交流は,子どもの監護・養育のために適正な措置を求める権利であると考えられており,その背景には,父母の争いを越えて,子どもが両親(母父)との継続的な接触を続けることが健全な発達のために不可欠である,という考え方があると考えられます。
婚姻費用の支払には,親の扶養義務としての監護養育のための費用も含まれておりますが,面会交流の実施とは直接の関連は認められません。
したがって,面会交流の実施と婚姻費用の支払いとは,本来的に区別して考えるべき問題といえます。
ただし,非監護親には,婚姻費用の分担義務がありますので(民法760条),婚姻費用の支払がない場合には,婚姻費用分担調停手続(同審判手続)を利用するなどして,早急に解決を図るべき問題といえます。
夫からDVを受けており,子どもと面会交流をさせるのは危険だと思いますが,そのような場合でも,面会交流に応じなければなりませんか。
子どもがDV(暴力・暴言)を受けていた場合や,妻(または夫)がDVを受けていた場合,または子どもを連れ去られてしまうおそれが高いような場合には,面会交流を実施することが,子どもの福祉を害することにもなりかねません。
このような場合には,面会交流を実施するかどうかを含め,慎重に判断する必要があります。
実務においても,面会交流を実施することが子どもの精神的な安定を害し,または平穏な生活を妨げ,子どもの健全な成長を害するおそれが高い場合には,例外的に,面会交流を認めるべきではないと考えられております。
このような場合,家庭裁判所における面会交流の調停を実施し,家庭裁判所調査官の下,試行的面会交流の実施やFPICなどの第三者機関を利用した面会交流の実施が不可欠になると思います。
なお,FPICなどの第三者機関の利用には,利用条件や費用の問題もありますので,費用分担の方法などについても十分協議する必要があります。
面会交流の条件を調停で決めたのに,相手が約束を守ってくれません。そのような場合には,どうすればよいでしょうか。
合理的な理由もなく面会交流の条件を守ってもらえない場合には,①履行勧告の申し出をすることや,②間接強制の申立てを行うことが考えられます。
まず,①履行勧告とは,家庭裁判所が面会交流の履行状況を調査した上,義務者に対して,義務の履行を勧告する制度です(家事事件手続法289条7項)。これは,後で説明する②間接強制とは異なり,強制力はありませんが,比較的簡単な手続であり,費用も一切かからないため,利用価値はあると考えます。
次に,強制執行の一つとして,②間接強制の申立てをすることが考えられます(民事執行法172条)。
子どもは「物」ではありませんので,強制的に子どもを連れてくること(直接強制)は認められておりません。一方で,調停条項で定められた義務を履行していない場合に,義務者に対し,金銭の支払を命令することにより,心理的な強制力を加えることが可能であり,このことを②間接強制といいます。
もっとも,②間接強制が認められるためには,調停条項において,義務の内容が特定されていなければならないというハードルがありますので注意が必要です。
では,義務の内容がどの程度特定されている必要があるかという点については,「面会交流の日時または頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡し方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は…間接強制決定をすることができる」(最決平成25年3月28日・民集67巻3号864頁)とするのが判例であり,月1回,第2土曜日に,時間,受渡しの方法など具体的に実施要領で面会交流を定めた審判が出ていたケースで間接強制(不履行1回につき5万円)を認めております。