夫の不貞行為という裏切りに遭ったとき、妻が求めるのは、正当な慰謝料だけではありません。「子供たちとの生活を守りたい」「住み慣れた家を失いたくない」という切実な願いも、同じくらい重要です。
今回は、夫の不貞行為に苦しむ妻からのご依頼を受け、当事務所が交渉を主導し、慰謝料・養育費に加え、資産価値のある「アンダーローンの自宅不動産」を獲得するという、ご依頼者の将来の生活基盤を盤石にする形で離婚を成立させた事例をご紹介します。
①紛争の内容:夫の裏切りと「子供との家を守りたい」という妻の願い
ご依頼者様(Qさん・女性・主婦)は、夫Pさんの不貞行為を知り、深い悲しみと怒りに打ちのめされていました。お子様もまだ小さく、Qさんは離婚後の生活に大きな不安を抱えていました。
夫Pさんは会社役員で、多額の預貯金や株式といった資産を保有しており、夫婦の共有財産は相当な額に上っていました。一方で、家族で住んでいた自宅は、不動産評価額が住宅ローン残高を上回る「アンダーローン」の状態でした。
Qさんのご希望は、以下のとおりでした。
- 夫の不貞行為に対する正当な慰謝料を支払ってほしい。
- 法律どおり、夫婦の共有財産(夫名義の預貯金・株など)を2分の1で分与してほしい。
- ただし、こちらが支払う場合には最小限にしたい。
- 何よりも、子供たちが環境を変えることなく、住み慣れたこの家で暮らし続けられるようにしたい。
- 将来の支払いが不安なので、養育費もできるだけ確実に受け取りたい。
離婚を決意したものの、資産家である夫を相手に、これらの要求を全て実現できるのか。Qさんは一人で交渉することの限界を感じ、当事務所にご相談に来られました。
②交渉の経過:不動産を軸にした戦略的交渉で有利な条件を引き出す
当職はQさんの代理人として、夫Pさん側の代理人弁護士との交渉を開始しました。まず、Pさんの不貞行為は明白な有責行為であることを指摘し、慰謝料として300万円を請求。同時に、法的な権利として、Pさん名義の預貯金・株式を含む全共有財産の2分の1の分与を求めました。
案の定、Pさん側は、数千万円に及ぶ可能性のある現金での財産分与に難色を示し、「そこまでの現金支出は避けたい」という意向を強く示してきました。
当職は、このPさん側の「弱み」を交渉の好機と捉え、Qさんの最大の希望である「自宅に住み続ける」ことを実現するための、以下の戦略的な提案を突きつけました。
「多額の現金を支払いたくないのであれば、代替案として、財産分与の中心を『アンダーローンの自宅不動産』としてはどうか。Qさんとお子様の生活基盤を確保することを最優先で認めるなら、現金での分与について譲歩を検討する」
具体的には、以下のパッケージを提示しました。
- 自宅不動産の現物分与:
財産分与の大部分として、Qさんに自宅不動産の所有権を移転させる。 - 住宅ローン債務の承継:
Qさんが不動産を取得する代わりに、残りの住宅ローン債務も引き継ぐ。(※金融機関の承諾が前提) - 養育費の一括払い:
将来の未払リスクをなくすため、お子様一人の養育費を相場に基づき算定し、Pさんが一括で支払う。 - 慰謝料300万円の支払い:
これは不貞行為に対する当然の償いとして、別途支払いを求める。
この提案は、Qさんにとって、現金での財産分与を一部諦める代わりに、それを上回る価値のある「資産(プラス価値の不動産)」と「子供との生活基盤」を同時に確保できる、極めて有利なものです。
Pさん側も、多額の現金を失う事態を回避できるため、この提案に応じるメリットは大きいものでした。交渉の結果、Pさん側もこの条件を受け入れることになりました。
③ 本事例の結末:生活基盤と資産を確保し、円満な協議離婚が成立
最終的に、調停や訴訟に至ることなく、双方納得の上で以下の内容で協議離婚が成立しました。
- QさんとPさんは協議離婚する。
- PさんはQさんに対し、慰謝料として300万円を支払う。
- PさんはQさんに対し、養育費の一括払いとして金〇〇円を支払う。
- これらと、Qさんの本来支払うべき財産分与額を相殺し、残りを支払う。
- 財産分与として、Pさんは自宅不動産をQさんに分与し、Qさんは住宅ローン債務を承継する。これをもって、財産分与の主要部分の履行とする。
Qさんは、夫の裏切りという辛い経験を乗り越え、慰謝料とまとまった養育費、そして何よりお子様との大切な「家」を手に入れることができました。経済的な不安なく、新たな生活をスタートできたことに、大変満足されていました。
④ 本事例に学ぶこと:感情に流されず、戦略的に権利を実現する
本事例から学べることは以下のとおりです。
- 自分の希望に優先順位をつける:
Qさんは「子供との家を守ること」を最優先としました。離婚交渉において何を一番守りたいのかを明確にすることが、最適な解決策を見つける第一歩です。 - 財産分与は柔軟な発想で:
現金での分与に固執せず、不動産などの現物で分与を受けることも有効な手段です。特にアンダーローンの不動産は、住居と資産を同時に確保できる大きなメリットがあります。 - 相手の弱みを交渉のカードにする:
相手が「何を避けたいか(本件では多額の現金支出)」を正確に見極め、それを逆手に取ることで、交渉を有利に進めることができます。 - 養育費の一括払いは有効な選択肢:
相手に資力がある場合、将来の未払いリスクを回避するために養育費の一括払いを求めることは、子供の将来を守る上で非常に有効です。 - 弁護士に依頼するメリット:
夫の不貞行為に直面すると、感情的になり、冷静な判断が難しくなりがちです。弁護士にご依頼いただくことで、- あなたの代理人として、冷静かつ戦略的に交渉を進めます。
- 法的な権利を最大限主張し、最適な解決策を提案します。
- 相手方との直接交渉のストレスから解放され、ご自身の心のケアと新生活の準備に専念できます。
夫の裏切りに遭い、離婚を考えている方は、決して一人で戦おうとしないでください。あなたの正当な権利を守り、お子様との未来を確かなものにするため、ぜひ一度、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士 時田 剛志