長年連れ添った夫婦の離婚、いわゆる「熟年離婚」では、経済的な不安や、今さら相手とどう話せばいいのか分からないという戸惑いから、一歩を踏み出せずにいる方が少なくありません。
今回は、弁護士が代理人として表に出るのではなく、交渉の進め方などを後方からサポートする「バックアッププラン」をご利用いただき、定年後に浪費を始めた夫との離婚を早期に成立させ、ご自身の老後の生活基盤となる自宅不動産を確保した事例をご紹介します。
① 紛争の内容:夫の定年後の豹変と「自分で交渉する」という選択
ご依頼者様(Rさん・女性・60代主婦)は、夫Sさんと長年連れ添ってきました。しかし、夫Sさんが定年退職し、まとまった退職金を手にしてから、生活が一変しました。SさんはRさんに相談もなく、趣味や交際費に多額のお金を使うようになり、注意をしても聞く耳を持ちませんでした。老後のための大切な資金が日に日に減っていく状況に、Rさんは将来への強い不安と、夫への失望を感じ、離婚を決意しました。
Rさん夫婦の主な財産は、ローンを完済した自宅不動産のみ。Rさんは、この先一人で生きていくために、どうしてもこの住み慣れた家だけは手放したくないと考えていました。
しかし、長年専業主婦だったRさんは、夫と直接お金や離婚の話をすることに強い抵抗があり、かといって弁護士を代理人に立てて事を荒立てるのも避けたい、というジレンマを抱えていました。
そんな中、当事務所の「バックアッププラン」(弁護士が代理人にはならず、アドバイザーとして後方支援に徹するプラン)を知り、「これなら自分でもできるかもしれない」と、ご相談に来られました。
② 交渉の経過:弁護士を「お守り」に、冷静な直接交渉を展開
Rさんとのご相談で、当職は以下のサポートプランを立て、Rさんの直接交渉をバックアップしました。
- 交渉前の戦略会議
- 離婚協議で話すべきこと(離婚の意思、財産分与、年金分割など)をリストアップし、交渉のゴールを設定しました。
- 本件のゴールは「Rさんが自宅不動産を取得し、Sさんには退去してもらうこと」と明確化しました。
- 夫Sさんに話を切り出す際の言葉選びや、感情的にならないための心構えなどを具体的にアドバイスしました。
- 交渉中の随時サポート
- Rさんは、夫Sさんとの話し合いが終わるたびに、その内容を当職に報告。それを受け、次の交渉で何をどう話すか、Sさんの反論にどう切り返すかを一緒に考えました。
- 当初、夫Sさんは「今さら離婚なんて」「家は売って半分に分けるのが当たり前だ」と主張しました。
- それに対し、当職はRさんに、「Sさんの浪費が離婚の原因であること」「Rさんが長年家庭を守ってきた貢献度」「Sさんにとっても、新たな場所で心機一転、自由に生活するメリットがあること」などを冷静に伝えるよう助言しました。
- Rさんは、夫Sさんとの話し合いが終わるたびに、その内容を当職に報告。それを受け、次の交渉で何をどう話すか、Sさんの反論にどう切り返すかを一緒に考えました。
- 法的な「盾」の提供
- Rさんは、夫Sさんとの交渉中、「弁護士に相談しながら話を進めている」という事実を伝えることで、Sさんに「これは単なる夫婦喧嘩ではなく、法的な話し合いなのだ」と認識させ、無茶な要求を牽制することができました。
- 弁護士の存在が、Rさんにとって交渉を有利に進めるための「見えない盾」となったのです。
- 離婚協議書の作成支援
- 交渉が進み、合意内容が固まってきた段階で、法的に有効な離婚協議書のひな形を提供し、Rさんが作成した案を専門家の視点から細かくチェックしました。
弁護士という「お守り」があることで、Rさんは次第に自信を持って夫と話せるようになり、感情的な言い争いを避け、冷静に自分の要求と、それが双方にとってなぜ合理的かを説明できるようになりました。夫Sさんも、妻の毅然とした、しかし理路整然とした態度に、徐々に考えを改めるようになっていきました。
③ 本事例の結末:協議離婚成立、自宅確保で安心して老後へ
最終的に、裁判所の手続きを経ることなく、当事者間の話し合いのみで以下の内容を含む協議離婚が成立しました。
- RさんとSさんは協議離婚する。
- 財産分与として、SさんはRさんに対し、自宅不動産の所有権を分与する。
- Sさんは、合意した期日までに自宅から退去する。
- 年金分割についても合意する。
合意後、作成した離婚協議書に基づき、速やかに所有権移転登記を完了させました。Rさんは、長年の不安から解放され、住み慣れた家で安心して老後の生活を送るための確かな基盤を手にすることができ、「一人では絶対に無理でした。先生が後ろにいてくれるだけで、こんなに強く交渉できるなんて思いませんでした」と大変喜んでおられました。
④ 本事例に学ぶこと:新しい弁護士の活用法「バックアッププラン」
本事例から学べることは以下のとおりです。
- 「バックアッププラン」は賢い選択肢
- 弁護士費用を抑えながら、専門的なアドバイスを受けることができます。
- 相手を過度に刺激せず、円満な協議離婚を目指しやすいのが大きなメリットです。
- 自分で交渉することで、離婚後の人生に対する当事者意識と納得感を高く持つことができます。
- 交渉には「準備」と「戦略」が不可欠
- 感情的に自分の要求をぶつけるだけでは、話し合いは進みません。事前にゴールを定め、法的な根拠に基づいた交渉戦略を立てることが、熟年離婚を成功させる鍵です。
- 弁護士の存在自体が交渉力になる
- 代理人として表に出なくとも、「専門家がバックにいる」という事実は、相手に対する牽制となり、交渉を有利に進める力となります。
- 熟年離婚こそ、専門家のサポートを
- 老後の生活設計に直結する熟年離婚は、財産分与や年金分割など、専門的な知識が不可欠です。どのような形であれ、一度は弁護士に相談し、ご自身の権利や交渉の見通しについて正確な知識を得ることを強くお勧めします。
当事務所では、ご依頼者様のご希望や状況に合わせて、代理人として活動するプランだけでなく、今回のような「バックアッププラン」もご用意しております。ご自身の力で、しかし専門家の支えを得ながら、納得のいく解決を目指したいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
弁護士 時田 剛志