離婚後の生活を守る「扶養的財産分与」とは、認められる場合等について弁護士が解説します

配偶者との離婚を決意したとき、多くの方が同時に「離婚した後の生活をひとりで送っていけるだろうか」という深い経済的不安に直面します。

特に、長年専業主婦として家庭を支えてきて社会復帰に時間がかかる場合や、高齢、病気、幼い子供の育児などの事情から離婚後すぐに十分な収入を得ることが難しい場合、これからの生活費や住居の確保は死活問題です。

離婚の際にお互いの財産を分け合う財産分与は、原則として夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を2分の1ずつ公平に分配するものとされています 。しかし、単純に財産を半分に分けるだけでは、元配偶者の今後の生活がたちまち困窮してしまうケースも少なくありません。

このような場合に、経済的に優位にある側が、離婚後に自立するまでの生活を支える目的で支払う財産分与を扶養的財産分与といいます。これは、新しい一歩を踏み出すための大切なセーフティネットとなる制度です。

そこで本コラムでは、財産分与の概要を解説したうえで、扶養的財産分与の基本的な概要や認められるための具体的な要件等について分かりやすく解説します。

財産分与とは

財産分与とは

財産分与とは、離婚に際して、夫婦の一方がもう一方に対して、婚姻中に築いた財産を分配することをいいます。

離婚の際に、夫婦の一方は、もう一方に対して、財産の分与を請求することができ、当事者間では話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。

また、財産分与に関する話し合いをせずに離婚してしまった場合、今までは離婚後2年以内であれば財産分与の請求をすることができるとされていましたが、令和8年4月1日の民法改正によって、令和8年4月1日以降に離婚した場合、離婚後5年以内であれば財産分与を請求することができるようになりました(民法768条2項)。

令和8年4月1日以前に離婚した場合は、従前どおり、離婚後2年以内に財産分与を請求しなければならないので注意が必要です。

財産分与の対象となる財産

財産分与の対象となる財産

財産分与の対象は、夫婦が婚姻中に協力して得た財産です(民法768条3項)。

実務上、婚姻後、夫婦生活の中で得られた財産は夫婦二人の協力で得られた財産であるから、その名義にかかわらず、これを夫婦で分与するものと考えられています。よって、夫婦の共同生活中に形成された財産は、夫婦の一方名義の財産であっても、実質的には夫婦の協力で形成された財産であるといえ、財産分与の対象になります。

また、財産分与の対象となる財産について、いくつか具体例を紹介します。

  • 預貯金
  • 不動産
  • 自動車
  • 生命保険・学資保険
  • 株式
  • 退職金

財産分与の対象とならない財産

財産分与の対象とならない財産

反対に以下のような財産は、財産分与の対象となりません。

特有財産

特有財産とは、夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産であり、夫婦の一方が単独で有する財産のことをいいます(民法762条1項)。

すなわち、婚姻前から有している預貯金、婚姻中に相続や贈与で得た不動産などの財産については、原則、特有財産に当たり、財産分与の対象とはなりません。

他方で、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、夫婦の共有財産財産と推定されます(民法762条2項)。そのため、特有財産については、当該財産が特有財産であることを主張する側が立証責任を負います。つまり、特有財産と主張する側が、当該財産が特有財産であることを証明できない限り、その財産は夫婦の共有財産とみなされ、財産分与の対象財産ということになります。

別居後に取得した財産

財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻中に協力して得た財産ですので、別居後に夫婦の一方が取得した財産は、財産分与の対象とはなりません。

財産分与の基準時

財産分与の基準時

財産分与の対象財産は、夫婦関係における経済的な協力関係が終了した時点の財産です。すなわち、別居が離婚に先行している場合別居時に存在していた財産、別居が先行していない場合離婚時に存在していた財産が、財産分与の対象財産となります。

また、財産分与の対象財産の評価の基準時は、原則、財産分与請求権が行使された時点となります。実務上、不動産や株式などの評価額が変動する財産については分与時の評価額とされています。

他方で、預貯金や保険の解約返戻金のような基本的に財産価値が変動しない財産については、別居時を基準としています。

別居後に資産が減少した場合

実務上、財産分与の基準時は別居時とされていることから別居後の財産の増減は考慮されないのが原則です。もっとも、別居後に一方が財産を減少させた場合であっても、それが生活費や教育費の補足のためであれば例外的に減少後の財産を対象とする場合があります。

また、別居後も事業を共に行って、財産形成に寄与したという事情がある場合には、増加後の財産も対象とすべく、離婚時を基準とする場合もあります。

財産分与の割合

財産分与の割合

財産分与の割合は、原則として2分の1です。

しかし財産分与は夫婦間の財産関係を実質的に分配するものですので、例外的に、双方の寄与割合を考慮し、寄与度に応じての分配割合とすることが適正と判断されることもあります。

財産分与の3つの性質

財産分与の3つの性質

法律上の財産分与には、実務において主に3つの性質があると解されています 。扶養的財産分与を正しく理解するために、まずは財産分与の全体像を押さえておきましょう。

清算的財産分与

婚姻中に夫婦が協力して築き上げた共有財産(預貯金、不動産、自動車、株式など)を、名義のいかんにかかわらず原則2分の1ずつ分け合う、財産分与の最も核心的な性質です。

 慰謝料的財産分与

不倫やDVなど、離婚に至る原因(不法行為)を作った有責配偶者が、相手方に与えた精神的苦痛を賠償するために財産を分与する性質です 。実務上は離婚慰謝料として別途一括請求することが一般的ですが、財産分与に慰謝料の要素を含めて解決することもあります。

扶養的財産分与

離婚によって夫婦の一方が経済的に困窮してしまうのを防ぐため、生計を維持できるだけの十分な収入がある他方の配偶者が、離婚後の生活援助として一定の財産を給付する性質を指します。

【ポイント】
扶養的財産分与は、あくまで「清算的財産分与」を行った後、それでもなお一方の配偶者が生活に困窮し、他方の配偶者に扶養する能力がある場合に、例外的・補完的に認められるものです。

扶養的財産分与が認められるための具体的な要件

扶養的財産分与が認められるための具体的な要件

扶養的財産分与は、離婚をすればどのようなケースでも当然に請求できるわけではありません。裁判所等で扶養的財産分与が認められるためには、主に以下の要件が総合的に考慮されます。

請求する側に扶養の必要性があること

離婚後に自力で生計を立てることが困難であるという客観的な事情が必要です。具体的には以下のようなケースが該当します。

  • 高齢や病気・怪我により、就労して十分な収入を得ることが難しい
  • 幼い子供を一人で育てる(ひとり親になる)ため、フルタイムでの就労が難しく、パート収入等だけでは生活費が不足する
  • 長期間の専業主婦(主夫)であったため、すぐに相応の職に就くことができず、自立までに一定の準備期間が必要である
  • 清算的財産分与で受け取れる財産(預貯金や不動産など)が非常に少ない、あるいはオーバーローンの自宅しかなく実質的なプラス財産がない

支払う側に扶養できる能力があること

いくら相手方が困窮しているからといって、支払う側の収入や財産も少なければ、扶養的財産分与を命じることはできません。

支払う側に、自身の生活を維持したうえで、さらに元配偶者を経済的に援助できるだけの安定した収入や豊富な資産があることが求められます。

婚姻期間が相応に長いこと

同居期間や婚姻期間が数ヶ月〜1、2年といった短期離婚の場合、お互いの人生に対する経済的依存度が低いとみなされ、扶養的財産分与は認められにくい傾向にあります。 一方で10年、20年、30年と長年連れ添った夫婦の熟年離婚などでは、これまでの内助の功や人生の協力関係を考慮し、扶養的財産分与が認められる可能性が一段と高くなります。

扶養的財産分与の「金額」と「期間」の相場

扶養的財産分与の「金額」と「期間」の相場

多くの方が最も気になるのが、「一体いくらを、いつまで支払ってもらえるのか」という点ではないでしょうか。 清算的財産分与のように2分の1という明確な基準がないため、実務上の相場感を解説します。

支払い期間の相場:原則として半年から3年程度

扶養的財産分与は、元配偶者を一生涯養い続けるためのものではありません。あくまで経済的に自立するまでの暫定的な猶予期間という位置づけです。

そのため、裁判例や実務の話し合いでは、半年から3年程度という短い期間に限定して支払いを認めるケースが多数を占めます。

金額の相場:生活を維持するために不足する実費分

金額については、法律で一概に月額〇万円と決まっているわけではありません。

一般的には、月額5万円〜15万円程度の範囲内で、双方の収入格差に応じて決定されるケースが目立ちます。子供がいる場合は、子供の分の養育費とは完全に枠を分けて、元配偶者本人の生活扶養分として加算されます。

まとめ

まとめ
  • 財産分与とは、離婚に際して、夫婦の一方がもう一方に対して、婚姻中に築いた財産を分配することをいう。
  • 離婚時に財産分与の取り決めをしていなくとも、令和8年4月1日以降に離婚した場合には5年間、それ以前に離婚した場合には2年間財産分与の請求をすることができる。
  • 財産分与の対象は、夫婦が婚姻中に協力して得た財産(預貯金、保険、不動産、株式、退職金など)である。
  • 財産分与の割合は、原則として2分の1だが、例外的に寄与度に応じた分配割合が適正と判断されることもある。
  • 請求する側に扶養の必要性があり、相手方に扶養できる能力があり、結婚期間が相当程度長期間にわたる場合には、扶養的財産分与が認められやすい。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧

離婚・不倫慰謝料

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、離婚案件を中心に多数の家事事件に対応。依頼者の心情に寄り添った丁寧なヒアリングと、迅速な紛争解決の実務に精通している。夫婦間で激しい感情の対立がある状況において、粘り強い交渉力を発揮し、円満な解決に向けた法的支援に注力。若手ならではの機動力と最新の判例知識を武器に、依頼者の最善の利益確保に邁進している。