
夫の暴言やつきまといが怖く別居へ踏み出せない女性へ。新居や実家の住所を隠す公的制度『DV等支援措置(住民票・戸籍の閲覧制限)』の申請手順や、精神的DVにも拡大された『保護命令』の活用法、安全な別居を成功させる手順を弁護士が詳しく解説します。
はじめに~追及や押しかけの恐怖から、別居を踏み出せない女性へ

「夫のモラハラや暴言に耐えかねて別居したいけれど、新居の住所を知られたら押しかけられて何をされるかわからない……」
「実家に逃げたら、実家に押しかけられて親や親族にまで迷惑がかかってしまうのではないか……」
夫との離婚を決意しながらも、「別居後のつきまといや押しかけ、執拗な追及への恐怖」から、別居という第一歩を踏み出せずに悩んでいる女性からのご相談が数多く寄せられています。
特に、夫の支配欲が強いケースや、感情の起伏が激しく話が通じないケースでは、妻が家を出た後に職場や新居、実家へ押しかけたり、無関係な親族にまで連絡を入れまくったりするトラブルが後を絶ちません。
しかし、法制度や自治体の支援窓口を正しく理解し、事前に対策を講じておけば、夫に新居や実家の住所を一切知られることなく、安全に別居をスタートさせることは十分に可能です。
本コラムでは、配偶者からの追及を断ち切り、自分とお子さんの安全を守りながら離婚協議を進めるための二大公的制度「DV等支援措置(住民票・戸籍の閲覧制限)」と「保護命令」について、申請の手順や注意点、弁護士と連携した安全な別居のロードマップを分かりやすく徹底解説します。
なぜ夫に新居や実家の住所がバレてしまうのか?

対策を立てる前に、まず「どのような経路で新住所が配偶者に漏れてしまうのか」を知っておくことが不可欠です。別居後に居場所が特定されてしまう主な原因には、以下の4つがあります。
住民票や戸籍の附票を閲覧・取得される
最も多い原因が、自治体での行政手続きによる漏洩です。
法律上、夫婦は婚姻している間、同じ戸籍および住民票の世帯に入っていることが一般的です。妻が別居先で新しく住民票を移動させると、夫(または夫から依頼を受けた代理人や弁護士など)が役所の窓口で「住民票の写し」や「戸籍の附票(住所の履歴が記録されている書類)」を請求して交付を受けることで、新住所が簡単に特定されてしまうのです。
子どもの学校・保育園・習い事関係からの漏洩
お子さんを連れて別居する場合、転校・転園手続きや、習い事の連絡網、保護者ネットワークから新住所や行動範囲が相手に伝わってしまうケースがあります。学校や保育園に対し、事情を説明して情報開示を制限する事前要請を行っていないと、問い合わせてきた父親(夫)に対して学校側がうっかり連絡先や所在地を教えてしまうリスクもあります。
スマートフォンやIT機器の位置情報(GPS・クラウド連携)
現代特有の漏洩パターンとして増えているのが、デジタル機器を介した居場所の特定です。
•スマートフォンの「位置情報共有機能(ファミリー共有や『探す』機能)」がオンになったままになっている
•車にGPS発信機が仕掛けられている
•GoogleアカウントやApple IDのログイン情報が夫に把握されており、クラウドのログイン履歴や位置履歴から新住所が判明する
•SNS(InstagramやXなど)に投稿した写真の背景や位置情報タグから推測される
妻自身のうっかりした連絡や、親族・友人経由での漏洩
別居直後の動転している時期に、夫からの「荷物の送り先を教えてくれ」「子どもに会わせろ」という不意の連絡に対し、直接対応してしまうことで住所や最寄り駅を漏らしてしまうケースです。また、事情を知らない実家の両親や友人に夫が「妻と連絡が取れなくて心配している」と泣きつき、善意の第三者を介して居場所が漏れてしまうパターンも存在します。
居場所を隠す最強の防壁「DV等支援措置(閲覧制限)」とは?

前章で挙げた漏洩原因のうち、最も法的・行政的なリスクが高い「住民票からの住所特定」を防ぐための強力な制度が「DV等支援措置(住民票・戸籍の閲覧制限)」です。
DV等支援措置の概要
DV等支援措置とは、配偶者暴力(DV)、ストーカー行為、児童虐待などの被害者を保護するため、加害者(夫など)からの「住民票の写しの交付」や「戸籍の附票の写しの交付」の請求を自治体窓口で一括して拒否・制限する制度です。
この措置が受理されると、夫が役所の窓口に行っても、あなたの新住所が記載された住民票や戸籍の附票を取得することができなくなります。また、加害者からの不当なアクセスを防止するため、妻本人であっても郵送での交付請求が制限されるなど、極めて厳重な情報管理が行われます。
殴られていなくても対象になる?(モラハラ・精神的DV・経済的DVも対象)
「DV等支援措置」という名称から、「実際に殴られたり蹴られたりした身体的暴力がないと申し込めないのでは?」と誤解されがちですが、そんなことはありません。
制度の対象となる「配偶者からの暴力」には、以下のような行為も幅広く含まれます。
身体的DV
殴る、蹴る、物を投げつける、体を拘束するなど
精神的DV(モラハラ)~「心身」に危害を受けるおそれがある場合
大声で怒鳴る、「バカ」「死ね」などの暴言、無視を続ける、スマートフォンを監視するなど
性的DV
性行為の強要、避妊への不協力など
児童虐待
監護している子への暴行等
夫の言動によって生命・身体・精神に危害を受けるおそれや、執拗な追及・嫌がらせを受ける蓋然性があると認められれば、身体的暴力の痕跡(警察の被害届や診断書など)がなくても支援措置を受けることが可能です。
DV等支援措置の申請手続き4ステップ

支援措置を受けるためには、単に市区町村役場の窓口へ行くだけでは不十分であり、警察等の専門機関による「確認」を受ける必要があります。具体的には以下の4ステップで進めます。
ステップ①:警察または配偶者暴力相談支援センター等への相談
まず、警察署の生活安全課や、自治体の「配偶者暴力相談支援センター(婦人相談所など)」を訪問し、夫からの被害状況(暴言、モラハラ、脅迫的な言動など)を相談します。
※ここでの相談実績が、支援措置を認めるための重要な要件となります。弁護士が同行することで、警察への状況説明や相談実績の作成をスムーズに進めることができます。
ステップ②:「DV等支援措置申込書」の作成と確認印の取得
警察や支援センターで相談を行った後、「住民票基本台帳事務におけるDV等支援措置申込書」に必要事項を記入し、相談を受けた警察署長や支援センター長から「加害行為の確認(確認印)」を受けます。
ステップ③:新住所地の市区町村役場への申し出
新居を決めて引越しを行った後、新住所地の役所(住民登録を行う窓口)へ「確認印が押された申込書」を提出します。これにより、旧住所地および本籍地の自治体にも通知が行き、全国的な閲覧制限ネットワークが構築されます。
ステップ④:学校や保育園への配慮要請
役場への提出と並行して、お子さんの転校先・転園先の学校や保育園に対し、DV支援措置を受けている旨を伝えます。父親からの問い合わせがあっても住所や在籍状況を一切開示しないよう、書面で要請を出しておきます。
DV等支援措置の注意点と実務上の落とし穴

支援措置は非常に強力ですが、運用のルールを正しく理解しておかないと不利益を被ることがあります。
有効期間は1年間(更新が必要)
支援措置の効力は「1年間」です。離婚協議が長引いている場合、1年ごとに役所で更新手続きを行わないと、期限切れとともに制限が解除されてしまいます。
実家を避難先にする場合のリスク
実家の住所は夫が元々知っているケースが多いため、実家に住民票を移しても閲覧制限の効果は限定的です(実家に押しかけられるリスクは防げません)。可能であれば、夫に全く心当たりのない賃貸物件等を新居に選ぶことが推奨されます。
自分の親族の住所閲覧制限
夫が妻の実家や兄弟の住民票を辿物として居場所を推測しようとする場合、状況に応じて親族の住民票にも支援措置を準用・波及させることができる場合があります。
裁判所による強力な命令「保護命令」の活用と法改正

DV等支援措置が「行政手続き上の遮断」であるのに対し、裁判所から夫に対して直接「近づくな」と命じる法的措置が「保護命令」です。
保護命令とは?違反した場合は即座に逮捕(もあり得る)
保護命令とは、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)に基づき、地方裁判所が加害者に対して発令する命令です。
保護命令が出されたにもかかわらず、夫がこれに違反して接近したりつきまとったりした場合、「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金(2024年法改正により厳罰化)」という重い刑事罰が科され、警察によって即座に逮捕されることがあります。そのため、加害者に対する制止力・威嚇効果は極めて強力です。
令和6年(2024年)改正DV防止法による大きな変化
2024年(令和6年)4月施行の改正DV防止法により、保護命令の適用範囲と効果が大幅に強化されました。特に大きなポイントは以下の2点です。
「精神的DV(言葉の暴力やモラハラ)」も接近禁止命令の対象に拡大
従来の保護命令は、主に「身体的暴力」や「生命への脅迫」があった場合に限定されていました。しかし改正法により、「心身に深刻な害を及ぼす言動(激しいモラハラ、自由の拘束、継続的な暴言など)」を受けた被害者についても、接近禁止命令が発令できるようになりました。
接近禁止命令の期間が「6ヶ月」から「1年間」に倍増
命令の有効期間が従来の半年にから1年に延びたため、より長期間にわたって安全を確保しながら離婚調停や訴訟を進めることが可能になりました。
主な保護命令の種類
被害者への接近禁止命令(1年間)
新居や職場の付近をつきまとったり、徘徊したりすることを禁止します。
電話等禁止命令(1年間)
電話をかける、FAXやメール・LINEを送る、無言電話、連続した着信を残す、SOSメッセージの強要などを一切禁止します。
子・親族への接近禁止命令(1年間)
子どもが通う学校や保育園、あるいは妻の実家などに押しかけることを禁止します。
退去命令(2ヶ月間)
同居している家から夫を退去させ、その周辺を徘徊することを禁止します(妻が安全に荷物を搬出する期間の確保などに使われます)。
夫に知られず安全に別居を成功させるために

DV等支援措置や保護命令といった制度があっても、別居を切り出すタイミングや方法を誤ると、その場で激昂されたり連れ戻されたりする危険があります。弁護士が推奨する「安全な別居のステップ」は以下の通りです。
[ステップ1:証拠収集と事前相談]
・モラハラ・DVの証拠(録音、LINE、日記、診断書等)の確保
・警察・支援センターへの相談実績づくり
・弁護士への事前相談(別居手続きと離婚戦略の策定)
↓
[ステップ2:新居の契約とライフラインの準備]
・夫に知られない手段で賃貸契約(秘密保持の要請)
・引越し業者の手配(隠密な搬出計画)
・スマホの位置情報(GPS・クラウド連携)の完全オフ
↓
[ステップ3:Xデー(別居当日)の実行]
・夫の不在時(出勤中など)に迅速に荷物を搬出
・重要書類(通帳、実印、子どもの保険証、年金手帳等)の持ち出し
・置き手紙の設置(「自分の意思で家を出た。連絡は弁護士へ」)
↓
[ステップ4:自治体での住民票移動とDV等支援措置の即日適用]
・新居地の役所で転入届提出と同時に支援措置の適用申請
・学校・保育園への閲覧制限と保護要請
↓
[ステップ5:弁護士による受任通知の送付と婚姻費用分担請求]
・弁護士から夫へ「受任通知」を送付(本人への直接連絡を禁止)
・速やかに「婚姻費用分担請求調停」を家庭裁判所に申し立て
別居時の最重要ポイント~「弁護士の受任通知」による遮断効果

別居を実行した直後、夫はパニックや激怒から、妻の携帯電話に何十回も着信を入れたり、LINEで「警察に捜索願を出す」「実家に殴り込む」といった脅迫的なメッセージを送ってきたりすることが多々あります。
ここで妻本人が直接対応してしまうと、恐怖から居場所を言わされたり、口論になって精神的に疲弊したりしてしまいます。
そこで絶大な効果を発揮するのが、「弁護士からの受任通知」です。
弁護士が代理人として介入し、夫に対して「今後の連絡窓口はすべて弁護士とする。妻本人や実家への直接の電話・訪問・SNSでの連絡は一切禁止する」旨を記載した通知書を送付します。多くの夫は、法律のプロである弁護士が介入したことで冷静にならざるを得ず、直接のつきまといや嫌がらせを思いとどまるようになります。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 平栗丈嗣
離婚・不倫慰謝料
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和2年登録。大学で心理学を専攻した経歴を持ち、法的な観点のみならず心理学的知見を活かしたアプローチを強みとする。特に離婚問題に注力しており、論理的な法的解決にとらわれず依頼者の感情面にも配慮した多角的なサポートに尽力。民間企業での実務経験に基づく豊かな人生経験から、依頼者に寄り添う安心感と信頼性を備える。







