紛争の内容:結婚後の生活の変化、そして夫による婚姻費用の支払い拒否
ご依頼者様(Cさん・女性・専業主婦)は、夫Dさんと結婚後、Dさんの希望もあり、それまで勤めていた会社を退職し、専業主婦として家庭を支えていました。

しかし、結婚生活が始まってしばらくすると、家計の管理や将来設計など、お金に関する価値観の違いから夫婦間の口論が増え、次第に関係が悪化していきました。

Cさんは精神的に追い詰められ、やむなく実家に戻る形で別居を開始しました。別居後、Cさんには収入がなかったため、Dさんに対し、法律上の夫婦である以上、別居中の生活費として婚姻費用を支払うよう請求しました。

ところが、Dさんは「君が勝手に出て行ったのだから、生活費を支払う必要はない」「自分も生活が苦しい」などと主張し、婚姻費用の支払いを一切拒否しました。

Cさんは、日々の生活にも困窮する状況となり、将来への不安とDさんの不誠実な対応に強い憤りを感じ、当事務所にご相談に来られました。

交渉・調停の経過:弁護士による法的根拠に基づく請求と調停での粘り強い交渉
当職がCさんの代理人としてDさんと交渉を開始しましたが、Dさんは当初の強硬な態度を崩さず、話し合いによる解決は困難な状況でした。

そこで、Cさんの生活を早期に安定させるため、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てました。

調停において、当職は以下の点を強く主張しました。

  • 婚姻費用の分担義務
    夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する義務があり(民法760条)、別居中であっても夫婦関係が継続している限り、収入の多い側は少ない側に対して生活保持義務を負うこと。
  • Cさんが専業主婦であることの正当性
    Cさんが専業主婦となったのはDさんの意向もあってのことであり、それをもって婚姻費用の請求が不当とされる理由にはならないこと。
  • Dさんの支払能力
    Dさんの収入資料に基づき、裁判所の公表している婚姻費用算定表を参照すれば、Cさんに対して応分の婚姻費用を支払う義務と能力があること。
  • 「支払う必要はない」という主張の不当性
    別居の原因がどちらにあるかに関わらず、原則として婚姻費用分担義務は免れないこと(ただし、極端な有責行為がある場合は考慮される余地がありますが、本件では該当しませんでした)。

Dさん側は、当初「Cさんが一方的に別居した」「自分には支払う余裕がない」といった主張を繰り返しました。しかし、当職が客観的な資料(Dさんの源泉徴収票、Cさんの無収入であることの証明など)を提出し、調停委員に対しても婚姻費用の法的性質や算定表の合理性を丁寧に説明することで、徐々に調停委員もこちらの主張に理解を示し始めました。

調停委員からは、Dさんに対し、法律上の義務として婚姻費用を支払う必要があること、算定表が一つの目安となることなどが伝えられ、Dさんも徐々に態度を軟化させていきました。

本事例の結末:妥当な婚姻費用の獲得と円満な離婚成立
数回の調停期日を経て、最終的に以下の内容で婚姻費用に関する合意が成立しました。

  • DさんはCさんに対し、婚姻費用として月額●万円を、離婚成立または同居再開まで支払う。
    (算定表に基づき、双方の収入状況や諸事情を考慮した妥当な金額)
  • 調停申し立て時からの未払い分についても、解決金として一定額を支払うことで合意。

婚姻費用が無事定められたことで、Cさんの当面の生活は安定し、精神的な落ち着きを取り戻すことができました。
その後、この婚姻費用の合意を前提として離婚協議を進め、財産分与や年金分割など他の条件についても比較的スムーズに話し合いが進み、最終的には協議離婚(調停離婚に移行する場合もあります)が成立しました。

Cさんは、夫の言葉を鵜呑みにせず、弁護士さんに相談して本当に良かった。これで安心して新しい生活を始められますと述べられました。

本事例に学ぶこと:婚姻費用は正当な権利、諦めずに専門家へ
本事例から学べることは以下のとおりです。

  • 別居中の婚姻費用は法律で認められた権利
    夫婦である以上、別居していてもお互いに生活を助け合う義務があります。収入の少ない側は多い側に対して、自分と同じ水準の生活を維持するための費用(婚姻費用)を請求する権利があります。
  • 相手の「支払う必要はない」という言葉に惑わされない
    相手方が感情的に支払いを拒否したり、誤った法的知識に基づいて「支払う義務はない」と主張したりすることがありますが、それに臆する必要はありません。
  • 専業主婦(夫)でも婚姻費用は請求できる
    夫婦の合意のもとで家事育児に専念してきた場合など、正当な理由があって無収入(または低収入)である場合、当然に婚姻費用を請求できます。
  • 婚姻費用分担請求調停の有効性
    当事者間の話し合いで解決しない場合、家庭裁判所の調停は有効な手段です。調停委員という中立的な第三者を介することで、冷静な話し合いが期待でき、法的な観点から妥当な解決が図られやすくなります。
  • 弁護士に依頼するメリット
    • 法的な根拠に基づき、相手方に対して毅然と請求を行うことができます。
    • 煩雑な調停手続きや相手方との直接交渉から解放され、精神的な負担が軽減されます。
    • 婚姻費用算定表などの客観的基準に基づき、適正な金額を獲得できる可能性が高まります。
    • 婚姻費用の問題だけでなく、その後の離婚協議全体を有利に進めるためのサポートが受けられます。

別居中の生活費の問題は、離婚を考える上で避けて通れない重要な課題です。もし相手方が婚姻費用の支払いに応じない、あるいは不当に低い金額しか提示してこないといった場合には、諦めずに、まずは離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。あなたの正当な権利を守り、新しい生活への第一歩をサポートいたします。

当事務所では、ご依頼者様一人ひとりの状況を丁寧にお伺いし、最善の解決策をご提案させていただきます。お気軽にご相談ください。

弁護士 時田 剛志