パートナーの裏切りが発覚したとき、多くの人が「離婚」という選択肢を思い浮かべるかもしれません。しかし、心の奥底では「もし相手が心から反省してくれるなら、もう一度やり直したい」と願う方もいらっしゃいます。
今回は、離婚ではなく、夫婦関係の再構築を目指して「円満調停」という手続きを利用し、夫の真摯な反省を引き出し、具体的な約束を取り付けて円満解決に至った事例をご紹介いたします。
① 紛争の内容:夫の裏切りと「やり直したい」という妻の葛藤
ご依頼者様(Nさん・女性)は、行動を疑っていたところ、調査により、夫Oさんが複数回にわたり風俗店を利用していたことを知りました。Nさんは深いショックと裏切られた悲しみで、夫を問い詰めました。夫Oさんは事実を認めて謝罪しましたが、Nさんは夫を信じることができず、耐えかねて別居を開始しました。
しかし、Nさんの心の中には大きな葛藤がありました。離婚したいという気持ちがある一方で、これまでの結婚生活を考えると、Oさんが本当に反省し、二度と裏切らないと約束してくれるなら、夫婦関係を修復したいという気持ちも捨てきれずにいました。
ただ、当事者同士で話し合っても感情的になるばかりで、夫の言葉もどこか上滑りに聞こえてしまう。このままでは前に進めないと感じたNさんは、「離婚ではなく、関係をやり直すための解決策はないか」と当事務所にご相談に来られました。
② 交渉・調停の経過:円満調停で「反省の形骸化」を求める
当職はNさんのお気持ちを丁寧にお伺いし、離婚を目的とするのではなく、夫婦関係の円満な調整を目指す「夫婦関係調整調停(円満調停)」を家庭裁判所に申し立てることをご提案しました。この調停は、夫婦関係を修復するための話し合いの場として利用することができます。
Nさんの代理人として、調停において以下の点をOさん側に求めました。これは、単なる口約束ではなく、Oさんの反省を「形」として示してもらい、今後の夫婦生活における再発防止の担保とするためです。
- 謝罪文の作成・提出:
今回の行為について、Nさんをどれだけ傷つけたかを具体的に認識し、反省の意を文章として残してもらうこと。 - 慰謝料100万円の支払い:
Nさんが受けた精神的苦痛に対する償いとして、具体的な金額を支払うことで、行為の重大さを認識してもらうこと。 - 離婚届の差し入れ:
夫Oさんが署名・捺印した離婚届をNさんに預けること。これは、「次に同じことをしたら、もう後はない(離婚届を提出されても文句は言えない)」という強い抑止力となり、Oさんの覚悟を示すものとなります。
調停が始まると、夫Oさんは関係修復を望む姿勢は見せ、謝罪等の条件を受け入れることを調停委員から伺いました。
せっかくの機会ですので、Nさんがどれほど深く傷つき、夫を信じられなくなっているか、そしてこれらの条件は夫を罰するためではなく、Nさんが安心して再び夫を信じ、共に歩んでいくための「土台」として不可欠なものであることを説明しました。
調停委員も、Nさんの切実な思いと、提示した条件が関係再構築のために合理的なものであることを理解し、Oさんに対しNさんの気持ちを伝えていただきました。
③ 本事例の結末:全条件を受け入れ、関係再構築へ
数回の調停期日を経て、夫Oさんも自身の行為の重大さと、Nさんの思いの深さを真に理解し、Nさんが提示した全ての条件を受け入れました。
- Oさんは、Nさんに対し、謝罪文を提出する。
- Oさんは、Nさんに対し、慰謝料として100万円を支払う。
- Oさんは、署名・捺印済みの離婚届をNさんに差し入れ、Nさんはこれを預かる。など
これらの合意が調停調書に記載され、円満調停は成立しました。Nさんは、Oさんの覚悟を形として受け取ることができたことで、ようやく夫を許し、再び向き合う気持ちになれたとのことでした。その後、ご夫婦は同居を再開し、関係再構築に向けて新たな一歩を踏み出されました。
④ 本事例に学ぶこと:離婚だけが解決策ではない
本事例から学べることは以下のとおりです。
- 「円満調停」という選択肢がある
夫婦関係に問題が生じたとき、裁判所の手続きは離婚のためだけにあるわけではありません。「円満調停」を利用することで、関係修復に向けた冷静な話し合いが可能です。 - 第三者を介する話し合いの重要性
当事者同士では感情的になりがちな問題も、調停委員という中立な第三者を介することで、お互いの本心や言い分を冷静に伝え、受け止めることができます。 - 「反省の現実化」が再構築の土台となる
口先だけの謝罪では拭えない不信感も、慰謝料の支払いや謝罪文、離婚届の預託といった具体的な「形」にすることで、裏切った側の覚悟が伝わり、許す側の安心材料となり得ます。 - 離婚届の差し入れは強力な抑止力
「次に裏切ったら離婚」という約束を、離婚届を預かるという形で担保することは、再発防止に対して非常に強い心理的プレッシャーとなり、関係維持に効果的に働く場合があります。 - 弁護士は「関係修復」のサポートも行う
弁護士の役割は、離婚させることだけではありません。ご依頼者様の真の望みが「関係再構築」であれば、その目的を達成するために法的な知識と交渉力を駆使して、最善の解決策をご提案・実行します。
パートナーの裏切りに悩み、「離婚か、それとも修復か」という岐路に立たされている方は、決して一人で抱え込まないでください。「許したいけれど、このままでは許せない」という複雑な思いを整理し、形にするお手伝いができます。まずは一度、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士 時田 剛志