結婚生活において、夫婦間の問題だけでなく、その親族との関係が大きなストレスとなり、離婚に至るケースは少なくありません。

特に、夫が妻の立場を理解せず、夫側の親族からの心ない言動に妻が孤立してしまう状況は、妻にとって耐え難い苦痛となります。

今回は、夫やその親族との関係に疲れ果て、お子様数人を連れて別居を開始した妻が、当事務所にご相談いただき、困難な状況を乗り越え、婚姻費用の確保、住宅ローンの残る不動産の整理、そして適正な養育費を取り決めて離婚を成立させた事例をご紹介いたします。

紛争の内容:夫親族との関係悪化と経済的不安の中での別居
ご依頼者様(Hさん・女性・パート)は、夫Iさんと結婚し、数人のお子様に恵まれました。しかし、結婚当初から夫IさんはHさんの気持ちに寄り添うことが少なく、特にIさんの両親(Hさんにとっては義父母)との関係において、Hさんは常に孤立感を深めていました。

義父母はHさんの家事や育児のやり方に事あるごとに口を出し、時には厳しい言葉でHさんを責めることもありました。

Hさんが夫Iさんに相談しても、「俺の親がそんなことを言うはずがない」「お前が大げさに言っているだけだ」と取り合ってもらえず、誰も味方になってくれない状況に、Hさんは精神的に追い詰められていきました。

耐え切れなくなったHさんは、お子様全員を連れて実家に戻る形で別居を開始しました。

しかし、別居後の生活は経済的に厳しく、また、夫婦の共有財産である自宅には多額の住宅ローンが残っており、今後どのように生活を再建し、離婚を進めていけば良いのか途方に暮れ、当事務所にご相談に来られました。

Hさんのご希望は以下のとおりでした。

  • まずは当面の生活費(婚姻費用)を確保したい。
  • 夫Iさんと離婚したい。
  • 子供たちの親権は自分が持ち、適正な養育費を受け取りたい。
  • 住宅ローンの残る自宅をどうにかしたい。

交渉・調停の経過:弁護士による段階的アプローチと粘り強い説得
当職はHさんから詳細な状況を聴取し、まずはHさんとお子様たちの生活の安定を図るため、婚姻費用分担請求調停を申し立てることをアドバイスしました。

同時に、離婚及び養育費、財産分与(特に不動産の問題)についても、段階的に解決していく方針を立てました。

  1. 婚姻費用分担請求調停の申し立てと交渉
    • 調停を申し立てると、当初、夫Iさんは「Hが勝手に出て行ったのだから婚姻費用を支払う義務はない」「自分も住宅ローンを抱えていて余裕がない」と強く反発し、離婚にも応じない姿勢を見せていました。
    • 当職は、調停委員に対し、Hさんが別居に至った経緯(夫親族からの精神的苦痛、夫の非協力的な態度など)を詳細に説明し、別居はやむを得ないものであったこと。法律上、別居中であっても夫婦には婚姻費用を分担する義務があることを、Iさんの収入状況から、算定表に基づけば応分の婚姻費用を支払う義務と能力があることを客観的な資料(収入資料など)と共に丁寧に主張しました。
    • 調停委員も、徐々にHさんの置かれていた状況に理解を示し、Iさんに対して婚姻費用の支払い義務があることを根気強く説得してくださいました。
    • 数回の調停期日を経て、まずは婚姻費用について、算定表に基づいた適正額をIさんがHさんに支払う内容で合意が成立しました。これにより、Hさんの当面の生活の目途が立ちました。
  2. 離婚及び財産分与(不動産問題)、養育費の交渉
    • 婚姻費用の合意後、離婚に向けた本格的な話し合いを開始しました。最大の懸案事項は、住宅ローンが残っている自宅不動産の扱いです。不動産の評価額よりも住宅ローン残高の方が多い、いわゆるオーバーローンの状態でした。
    • 当初Iさんは自宅に住み続けることを希望していましたが、Hさんへの財産分与や、離婚後のIさん自身の生活を考えると現実的ではありませんでした。
    • 当職は、調停委員とも連携し、不動産を任意売却し、その売却代金で住宅ローンをできる限り返済し、残債務についてはIさんが負担するという方向でIさんを説得しました。任意売却の手続きについても、不動産業者の選定や売却活動への協力など、具体的な道筋を示しました。
    • 養育費については、婚姻費用と同様に算定表を基準とし、お子様全員が成人するまでの適正な金額で合意できるよう交渉を進めました。親権については、これまでの監護実績からHさんが持つことで双方に異論はありませんでした。

本事例の結末:婚姻費用確保、不動産売却、適正な養育費で離婚成立
粘り強い交渉の結果、最終的に以下の内容で調停離婚が成立しました。

  • 婚姻費用 月額〇万円をHさんに支払う。(先行して合意済み)
  • 離婚 HさんとIさんは離婚する。
  • 親権 お子様全員の親権者はHさんとする。
  • 養育費 お子様一人あたり月額〇万円を、それぞれが成人するまでIさんがHさんに支払う。
  • 財産分与 自宅不動産は任意売却する。売却代金は住宅ローンの返済に充当し、売却諸費用を控除した残余があれば折半する。

Hさんは、困難な状況を乗り越え、お子様たちとの新しい生活をスタートさせるための基盤を築くことができました。

本事例に学ぶこと:困難な状況でも諦めずに、専門家の力を借りて解決へ
本事例から学べることは以下のとおりです。

  • 夫親族との問題も離婚原因となり得る
    夫婦間の問題だけでなく、配偶者の親族との関係が著しく悪化し、婚姻関係の継続が困難になった場合、それは離婚原因として考慮されます。
  • 別居後の生活費(婚姻費用)は請求できる
    どのような理由で別居に至ったとしても、法律上の夫婦である限り、収入の少ない側は多い側に対して婚姻費用を請求する権利があります。まずは生活の安定を図ることが重要です。
  • 住宅ローンの残る不動産も解決方法は様々
    オーバーローンの不動産がある場合でも、任意売却や、どちらか一方が住み続けてローンを支払い続ける(その場合の清算方法の取り決め)など、様々な解決方法があります。専門家である弁護士が、状況に応じた最適な方法を提案できます。
  • 調停は有効な話し合いの場
    当事者同士では感情的になりがちな離婚問題も、家庭裁判所の調停を利用することで、調停委員という中立的な第三者を介して冷静に話し合いを進めることができます。相手が当初頑なな態度であっても、調停委員の説得によって解決に至るケースは少なくありません。
  • 弁護士に依頼するメリット
    • 法的な観点から、ご自身の置かれた状況を正確に把握し、適切な請求を行うことができます。
    • 相手方やその親族との直接交渉のストレスから解放され、精神的な負担を軽減できます。
    • 複雑な財産分与(特に不動産)や養育費の取り決めについて、専門的な知識に基づき有利な条件で解決できるようサポートします。
    • 調停や訴訟といった法的手続きを適切に進めることができます。

離婚問題は、一人で抱え込まず、まずは専門家である弁護士にご相談ください。特に、親族関係の悪化や経済的な問題、不動産の問題などが複雑に絡み合っている場合は、早期の相談がより良い解決への第一歩となります。

当事務所では、ご依頼者様のお気持ちに深く寄り添い、困難な状況からの再出発を全力でサポートいたします。お気軽にご相談ください。

弁護士 時田 剛志