紛争の内容
結婚11年目の夫婦。
夫A(50歳):公務員 年収800万円
妻B(45歳):公務員 年収700万円
子1人(11歳)
主な夫婦共有財産として自宅土地建物(ただし、夫婦連帯で2,000万円以上のローン残あり)

Aは結婚当初から些細なことで怒り出す傾向にあり、子供が生まれてからそれが顕著となる。
夫婦共働きで、Bも残業が多いのに、家事・育児はほとんどBが負担してきた。
夫婦喧嘩が度重なる中、子供の精神状態が不安定になっていたところ、Aがさらに子供を追い詰めるような発言をしたために、子供が自傷行為をするようになってしまった。
不安を感じたBは、子供を連れて別居を開始。
両家の両親を間に入れて話し合いもしたが、AB間の溝は埋まらず、Bは離婚を決意して弁護士に依頼した。

交渉・調停・訴訟などの経過
Bから離婚調停を申し立て、Aも弁護士をつけて調停に出頭してきたが、「自分には非はない。離婚は絶対にしない」の一点張りであったため、離婚の調停は不成立となり、同時に申し立てていた婚姻費用分担調停にて別居期間中の婚姻費用の金額のみが決定された。
Aに離婚原因事実を否認された場合にそれらの存在を立証することが困難であるため、この段階では訴訟提起には進まず、別居期間を積み重ねることにした。
その間、Aからは2度に渡って面会交流の調停が申し立てられ、家裁調査官による調査も行われたが、子供は父親を拒絶していることから、審判では誕生日プレゼントの送付とメールのやり取りに限定した交流だけが認められた。
別居して4年が経過する頃、これからの調停・訴訟での時間経過も織り込めば相当程度の別居期間の経過ということで離婚が認められるだろうと判断し、再度、Bから離婚調停を申し立てた。この時も、Aの主張は前回と変わらず、調停はすぐに不成立に。その後、Bは速やかに離婚訴訟を提起した。
訴訟においても、Aは離婚原因の存在を全面的に争う一方、予備的反訴を提起して、離婚する場合の親権者をAにするよう求めてきた。
また、Aは、婚姻後~別居開始までのBの家計管理に関する独自の計算表を作成・提出し、「多額の使途不明金があり、それはBがどこかにプールしているため、財産分与としての支払いはしない」という主張を展開してきた。これに対し、B側は11年分の家計簿を全て提出、ある程度の記載漏れはあるものの、Aが主張するような多額の使途不明金など発生しようがないことを主張した。
さらに、Aは、夫婦共有財産である自宅不動産の評価についても争い、あまりにも低廉な金額を主張して譲らないため、AB双方が費用を負担して不動産鑑定を実施。B主張の金額に近い鑑定結果を得ることができた。
その後、双方の主張・立証が出尽くしたところで当事者尋問まで予定されたが、直前になって、Aより尋問を中止して欲しい旨の申し入れがあり、そこでようやく、Aから「離婚に応じる」との回答が返ってきた。

本事例の結末
和解離婚成立。
親権者:妻B。
養育費:子が22歳になるまで月4万円。
財産分与:自宅不動産をAが単独で取得、残ローン2,000万円については夫が単独で引き受けることとし、現時点でのオーバーローン部分の2分の1に相当する金額をAからBに支払う。

本事例に学ぶこと
DVや不貞行為など確たる離婚原因がない場合に、配偶者の一方がこちらの主張する離婚原因事実を全面的に争い、「離婚はしない」という態度を続けると、客観的な別居期間の経過を待たなければならなくなり、離婚は長期戦となる。
本件も、最初の調停申立から6年以上の時間がかかっての解決であった。
さらに、本件での夫Aは非常に細かい性格で、財産分与において家具や食器の一つ一つに至るまで対象にすべきと主張するなど(もちろん、Aのこの主張は認められることはなかったが)、それらに対応するこちら側もかなりの労力を強いられることとなった。
そのような中、妻Bは常に冷静沈着であり、今できること・できないことをしっかり理解したうえで、弁護士の指示する資料等も速やかに収集して下さった。弁護士としては、まさに依頼者と一丸となって勝ち取った離婚であった。