紛争の内容
Aさんは、夫との性格の不一致や生活態度の不和などを理由に別居を開始し、すでに約2年が経過していました。別居期間中、婚姻費用の一部支払いはあったものの、正式な離婚に向けた具体的な協議はほとんど進展していませんでした。
当事者間で直接話し合おうとすると感情的な対立が再燃し、膠着状態が続いていました。Aさんは、子どもたちの将来を考え早期に法律上の関係を整理したいと強く希望していましたが、当事者間のみでの解決に限界を感じ、当事務所へ相談・依頼されるに至りました。
交渉・調停・訴訟等の経過
受任通知の送付と相手方代理人の就任
受任後、速やかに相手方(夫)に対し受任通知を送付し、以後の直接連絡を禁止するとともに、書面にて離婚協議の申し入れを行いました。
これを受け、夫側も弁護士を代理人に選任したため、以降は弁護士同士の代理人間交渉へと移行しました。感情的な衝突を排除し、法的論点に絞った建設的な協議を行える環境が整いました。
本事例の結末
双方が代理人を通じて条件を一つひとつすり合わせた結果、すべての離婚条件について合意に達しました。合意内容は以下の骨子で確定しました。
- 協議離婚の成立:双方が合意のもと離婚届を提出する。
- 親権:未成年の子ども全員の親権者を母(依頼者)と定める。
- 養育費:算定表通りの金額を毎月支払う。支払終期は原則20歳までとし、大学等に進学した場合はその卒業月まで延長する。
- 財産分与・慰謝料:互いに金銭請求を行わない(清算条項の合意)。
- 面会交流:子どもの意思を尊重し、適切な方法により実施する。
- 強制執行認諾文言:養育費の不払いが生じた場合に備え、直ちに強制執行に服する旨の認諾条項を付帯する。
上記内容に基づき、公証役場にて公正証書(強制執行認諾約款付離婚給付契約公正証書)を作成・調印し、速やかに離婚届が受理されて円満に解決しました。
本事例に学ぶこと
1. 当事者間での膠着は代理人介入で迅速に解消できる
夫婦間で感情的なしこりがある場合、直接の話し合いは平行線をたどり、別居期間だけが無意味に長引きがちです。弁護士が代理人として介入することで、感情論を排し、法的な基準に則った現実的な着地点を早期に見出すことが可能になります。本件のように双方が代理人を立てた場合、論点が整理され、裁判手続(調停・訴訟)を経ることなく迅速な協議離婚が実現しやすくなります。
2. 養育費における「大学進学条項」の重要性
民法改正による成年年齢の引き下げ(18歳成年)以降、養育費の終期を巡る解釈には細心の注意が必要です。単に「成年に達するまで」と記載すると18歳で支払いが終了してしまうリスクがあります。本件のように「原則20歳、大学等進学時は卒業月まで」と明記しておくことで、将来の教育費に関する経済的不安を確実に解消できます。
3. 条件の「取捨選択」による戦略的早期解決
離婚条件のすべてにおいて最大限の要求を通そうとすると、調停や訴訟への移行が不可避となり、解決まで年単位の時間を要することになります。本件では、財産分与をあえて追及しない選択をしたことで、短期間での解決を実現しました。何を最優先すべきかを明確にし、戦略的に交渉を進めることが重要です。
4. 公正証書作成による将来の未払いリスクヘッジ
協議離婚において口頭や私的な合意書だけで済ませてしまうと、将来養育費が滞納された際に改めて裁判を起こさなければ回収できません。「強制執行認諾文言」付きの公正証書を作成しておくことで、不払いが発生した際には裁判を経ずに給与や預貯金を差し押さえることが可能となり、長期にわたる子どもの生活基盤を守ることができます。
弁護士 安田 伸一朗






