紛争の内容
 主婦をしていたA子さんは、夫Bと婚姻して2年が経過していました。二人の間には子どもはいませんでしたが、A子さんも夫Bも子どもが欲しいとは考えており、二人の関係は婚姻当初から問題なく続いていました。ただ、夫Bは普段は穏やかな性格であるものの、突然怒り出すことがありました。ある日A子さんが夫Bと外出していた際、家事に疲れている様子を夫Bが理解してくれないことを嘆いていると、夫BはそのA子さんの言葉に怒り出し、A子さんを平手打ちしてしまいました。A子さんは丁度車道のすぐ近くの歩道を歩いていたので、Bに平手打ちされたことでよろけて、危うく車道に入り込んでしまうところでした。A子さんは突然の暴力に驚きましたが、Bはすぐには謝らず、しばらく夫婦の会話が途切れてしまいました。A子さんは病院に行ったり、警察に相談に行くということはしませんでしたが、Bが態度を突然変えることがあるということに恐怖を感じるようになり、Bとの離婚を考えるようになりました。BもA子さんが離婚を求めていたことは感じていましたが、A子さんは謝罪してほしいと求めても応じず、話し合いが平行線のままだったので、結局A子さんとBは別居状態となり、夫であるBのほうから離婚調停を申し立てることになりました。A子さんは、自分がBから暴力を受けた被害者であるにもかかわらず、Bから離婚調停を申し立てられたことにも納得できず、弁護士に相談して、調停事件として依頼することになり当職が担当することとなりました。

交渉・調停・訴訟などの経過
 調停の中では、A子さんもBも離婚すること自体には争いがなかったものの、Bは自分の暴力はA子さんの態度が悪かったからであって、自分もそれまでA子さんに度々家庭内で圧力を受けていて被害者である、と主張しました。しかし、当職からはA子さんがBからの暴力を受けたことは間違いがなく、その暴力行為自体は許されるものではないことなどを主張し、調停委員からはBからA子さんに50万円の慰謝料を支払い、今後一切A子さんもBもお互いの名誉などを傷つけることがないよう約束し合う、ということで和解をするよう勧められました。

本事例の結末
 調停委員からの提案に、A子さんもBも納得し、本件は離婚、Bからの慰謝料50万円の支払い、相互の名誉を傷つけないよう約束するという内容で調停成立し、終結しました。

本事例に学ぶこと
 Bの暴力はたったの1度ではありましたが、それまでむしろ被害者であると認識していたBに対し、調停という手続の中で有責性を認識してもらい、慰謝料を50万円支払ってもらうことができました。DVについては、証拠もなく、なかなか慰謝料の相場というものも判断が難しいのですが、調停という話し合いの手続の中で、双方歩み寄って合意をするという可能性はあるので、協議ができないという夫婦の場合は検討するのも一つと感じました。

弁護士 相川一ゑ